「芸大」とは、地域や解釈によって指している大学が異なることが多い。そのため、最初に芸大という呼称の定義を簡単に行いたい。
- 芸術大学の総称:美術・音楽学部等を持つ総合芸術大学。美術の単科大学(美大)は含まれない。
- 芸術系大学の略称:美大も含むので美術の単科大学も芸大となる。
- 東京藝術大学の略称:東京芸術大学は日本で唯一の国立総合芸術大学であり、国公立5芸大(金沢美術工芸大学、愛知県立芸術大学、京都市立芸術大学、沖縄県立芸術大学、東京藝術大学)で、唯一「藝大(芸大)」と略すことが許された大学である。大学公式URLはhttp://www.geidai.ac.jpであるし、藝大美術館はhttp://www.geidai.net。geidai.jpも藝大が押さえている。
大学でファッションに関する専攻の多くがファッションビジネスに関するもので、ウィキペディアによるとファッションデザインに関する専攻は16大学程度にとどまる。そのうち、ファッションデザイン学科のある芸術大学は神戸芸術工科大学だけで、女子美術大学にファッション造形学科、杉野服飾大学と大阪樟蔭女子大学に被服学科がある。その他の芸術系大学は、学科内のコースとなっている。しかし、東京藝術大学には、織物やテキスタイルの派生でファッションデザインに取り組んでいる学生はいるが、ファッションや服飾を専門に教えている講師がいるわけではない。では、何故、東京藝術大学にはファッションデザイン学科がないのだろか。
芸大は明治時代の政策でもあった近代化から日本の伝統美術を養護する勢力として、岡倉覚三らによっての振興を目的として設立された。藝大は今年で創設130年を迎え、これまで日本の伝統文化の技術伝承の役割を担ってきた。現在ファッションの基盤が和服ではなく洋服となっている状況と設立目的を考え合わせれば、藝大にファッションデザイン学科がないのは自然なことである。また、ファッションが学問として他分野と同じレベルに立つほど、国内のファッションは理論や歴史の積み重ねはない。文献をざっと探してみたが、ほとんどがマーケティング視点のものであり、美術・デザインとしての基礎研究が充実しているとは言いがたい。
とは言え、サブカルチャーと呼ばれる新しい文化が芽生え、芸術教育の在り方も時代の流れに合わせて変化しなくてはならない。芸術系大学にファッションデザイン専攻が増えたのも自然の成り行きではないだろうか。しかし、専攻以上の規模で成立しているところは数少ない。それは、ファッションデザインは著作物として認められないという点も考えられる。「流行」「トレンド」が生まれる理由について、ファッション業界に限り「そもそもファッションデザインは法的な保護を受けにくいからだ」と説明されることがある。衣服のデザインは立体商標として扱うべきという流れになっており、著作権のハードルは高くなっている。
イタリアのトップメゾンDOLCE & GABBANAのセカンドライン、D&Gが日本を撤退した理由は模倣品の多さである。D&Gが「模倣」をほのめかした日本国内のアパレル企業の多くは小規模で、デザイナーも若く、倫理観が未熟という事情もあるだろう。これでは、ファッションデザインの芸術的価値は生まれないのではないだろうか。もし、美術に無いものがファッションにはあるならば、それを見つけて美術と融合できれば、芸大にもファッションデザイン学科が創設されるのかもしれない。