ポール・ゴーギャン『黄色のキリスト』

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ポール・ゴーギャン(Paul GAUGUIN,1848-1903)の『黄色のキリスト』は、クロワゾニスム様式を用い、感覚的外見より思想的内面を重視する美術表現に取り組んだ作品である。クロワゾニスムとは、クロワゾネ(cloisonné)に由来する。七宝細工のひとつであり、金属素地に金属線で輪郭線を描き、その枠内に粉末ガラスを高温焼成したエナメルを埋めて装飾する技法である。

作品は1889年初めから翌年春までのポン=タヴァン滞在中に制作された。ポン=タヴァンのトレマロ聖母礼拝堂ある十字架のキリスト像から着想を得たとされる。このキリスト像は祈念の対象であり、信者は像のもとでキリストを幻視する神秘的な体験をする。この19世紀末のゴーギャンの作品は、先行するキリスト教美術作品の持つ機能と何が同じで何が違うのか、読み解いてみたい。

ヘンリク・ドーファーマン作の痛々しい姿の『十字架のキリスト』像は、これを見る信者がキリストの受難の物語に自分が立ち会うという神秘的体験を導き出す役割がある。レマロ聖母礼拝堂ある十字架のキリスト像と同様に礼拝堂の高い位置に設置され、仰ぎ見る行為が没入感を高める。また、ベルギーのルーヴェンにあるシント・ピーテル聖堂の内陣にも、高い天井の上からつり下げられた十字架上のキリスト像がある。これもまた、天上と地上を取り持つ装置として機能する。

ケルンにある逸名の画家の寄進者を伴う十字架のキリスト画も、個人礼拝堂で祈りを捧げるとき、画中の自分を見ることで没入感を高めていく宗教的な装置となっている。

ゴーギャンの描いた黄色いキリストの顔は安らかで、農婦たちは神秘的な体験をしているようには見えない。全体が黄色く木々は赤色、単純化された色使いが幻想的に感じられ、線や構成も単純化されて可愛らしく、素朴さが伝わってくる。描いたのは、信仰心が篤く、生活の中に祈りがある村民の、透明感のある心穏やかな暮らしなのだろうか。作品制作の背景には、写真術が誕生し、世界の忠実な描写であり続ける絵画への疑問があったのだろうか。