ビーフステーキの略は「ビステキ」である。ビフテキはフランス語の「bifteck(ビフテック)」が語源だ。ビステキという名称は夏目漱石の『野分』にも登場しており、公園の真ん中の西洋料理屋の眺望のいい二階で高柳君が「ビステキ」をむしゃむしゃと食べるのである。
高柳君が食べたのはどの部位かは不明だが、ビーフステーキに使われる肉は様々な部位があり名称もそれぞれある。柔らかく甘みと風味に優れ、ジューシーなのが特徴であるステーキ用の肉としてポピュラーなサーロインは腰の上部の肉である。これもまた14世紀のフランス語で「surlonge(シュールロンジュ)」が語源で、「sur」が上部で「longe」が腰部。それがイギリスに入って「sirloin」と転じる。きめが細かく脂の上質な旨みをともなった部位であり、「loin(腰)」の肉をイギリスのヘンリー8世の食事に出したところ、あまりにも美味いということでsirの称号をつけたなどいう通説もあるぐらいだ。食べるときは、肉汁が逃げない1センチ以上の厚切りにして焼いたものにしたい。