学習効果を高める睡眠

  • by

睡眠は、動物の生存に不可欠な高度な保存行動である。慢性的な睡眠不足は、食物摂取量の変化、体重減少または摂食亢進、皮膚病変、体温調節の低下、さらには死亡を含む広範にわたる有害な生理学的変化と関連している。この睡眠の重要な働きに記憶の固定がある。睡眠が不足すると、勉強をしていても集中力がなくなり能率が悪くなるが、熟睡した後は頭がスッキリして勉強が捗る。睡眠は脳を休ませる為に絶対に欠かせないものであり、脳と睡眠の関係は深い関わりがある。では、学習の効率にとってどれくらい睡眠をとるのが適切なのか。

時間的な持続の違いから、記憶は短期記憶・長期記憶に分けられる。長期記憶は年単位で長期間憶えている記憶であり、日中に記憶したこと(学習や経験)を忘れないように脳に定着させることである。その長期記憶には、陳述記憶・非陳述記憶がある。陳述記憶とは、イメージや言語として意識上に内容を想起でき、その内容を陳述できる記憶であり、エピソード記憶と意味記憶とがある。エピソード記憶は、人生の個人的な経験の記憶のことをいい、特に覚えておこうと意識しなくても自然に覚えているのが特徴である。意味記憶は知識の記憶であり、生まれて最初に覚える母国語も意味記憶である。言葉を覚えると様々な知識を吸収し、さらに学校で教科の勉強をする。こうして得た知識が意味記憶である。意味記憶は「覚えようと意識して覚える知識」であり、体験ではなく学習によって得られる記憶のことである。

睡眠には、脳が休息するためのノンレム睡眠と、身体を休めるためのレム睡眠とがある。ノンレム睡眠のときの脳はデルタ波を多く生じ、神経細胞同士の連絡であるシナプスを強めて学習や記憶形成を促進する。一晩の眠りの前半のノンレム睡眠は眠りが深く、嫌な記憶の消去を行う。後半のノンレム睡眠は眠りが浅く、昼間記憶したことと過去の記憶を結合する働きもある。これは色々な記憶を相互に関連づけることである。また、自転車の乗り方やスポーツの技術を身につけることなど、言語を介してその内容を陳述できない手続き記憶(非陳述記憶)を固定している。

一方のレム睡眠では、「いつ・どこで・何があったか」という、文脈を含んだエピソード記憶を定着する。日中に蓄積した情報を重みづけし、重要と判断した知識は海馬によって側頭葉などへと長期記憶として蓄える。また、意味記憶も含めて今までに記憶したことと関連づけ、次回記憶の想起がスムーズになるように「索引」を付ける作業も行われる。この2つの睡眠がセットとなり、約90分のサイクルで繰り返しているのである。